
※登場人物は全て仮名です。
私には年に数回、避けられない使命がある。
義母へのプレゼントである。
誕生日、母の日、お中元、お歳暮。気づけばカレンダーはすべて「義母関連イベント」で埋まっており、私の人生は義母のプレゼントを選ぶための余暇と仕事で成り立っていると言っても過言ではない。過言である。でも体感としてはそう。
去年の誕生日のことだ。
「何が欲しいかわからないし、無難に商品券にしよう」と夫が言い出した。名案だと思った。喜ばれるし、好きなものを買ってもらえるし、私の趣味を押しつけずに済む。完璧な作戦である。
百貨店のギフト売り場に向かった。
エレベーターを降りると、まず「のし紙の種類」という第一関門が待ち構えていた。蝶結び?結び切り?外のし?内のし?誕生日プレゼントに結び切りを選んだら「二度と誕生日が来ない」という意味になると店員さんに教えてもらい、危うく義母に呪いをかけるところだった。危なかった。
次に「有効期限は6ヶ月です」と告げられた。
6ヶ月。微妙な長さである。長いようで短い。使い忘れたら普通に消えるやつだ。
さらに「発行手数料が…」という言葉が続き、ここで初めて商品券が「買う側にもコストがかかる贈り物」であることを、35年生きてきて初めて正面から理解した。
そして翌日。
義母から届いたLINE。
「近くに百貨店がないから使えないかも〜😊ありがとね!」
スタンプは花束だった。にこにこしたウサギが花束を持っていた。笑っているのに私の胸には矢が刺さっていた。
話は少し変わるが、実は同じ時期に別の失敗もしていた。
遠方に住む友人が入籍したのである。「式なし、プレゼント不要」と言っていたが、そうは言っても何もしないのは寂しい。遠くて会えないし、Amazonギフト券はなんとなく味気ない気がして(完全に偏見である)、結局コンビニのATMで現金をおろして封筒に入れて郵送した。
切手84円。封筒30円。
振込じゃなくて現金郵送を選んだのは「温かみがある気がした」からである。温かみのコスト、114円也。
しかし後日、別の友人がSNSにこんな投稿をしていた。
「楽券ってLINEでその場で送れるじゃん、便利すぎる」
え。
LINEで?
今この瞬間に?
私のATM往復15分と封筒探しの10分と切手を探した5分と、ポストまで歩いた8分は……?
いや待て。話を戻そう。
義母の商品券事件から数週間後。楽天スーパーSALEが近づいてきた。
私は自他ともに認める「楽天民」である。楽天カードを使い、楽天銀行を使い、楽天市場でまとめ買いをし、SPU(スーパーポイントアッププログラム)の倍率を毎月スプレッドシートで管理している。友人には「ちょっと引く」と言われたが、ポイントは正義なので気にしない。
SALE前日の夜、いつものようにタイムラインを眺めていると、一件の投稿が流れてきた。
「楽天SALE前に楽券を買っておくとポイントが二重取りできますよ!」
……は?
楽券。
ラクケン。
楽天のギフト券、ということ?
スマホを持ったまま固まること5秒。そして検索した。
楽天市場で買えるデジタルギフト。メールやLINEで贈れる。有効期限は長め。使えるお店は楽天市場内の対象店舗から飲食チェーン、エンタメ系まで幅広い。さらにSALE期間中に購入すると、ポイント還元の恩恵も受けられる——。
スクロールしながら脳内で過去3回のSALEを振り返った。
ポイント還元を取り逃がしていた回数、3回。
計算しようとして途中でやめた。泣けてきたから。
その翌月。義母の母の日ギフトを選ぶ季節がやってきた。
今年の私はちがう。
スマホを開いた。楽天市場にアクセスした。楽券のページを探した。見つけた。種類を選んで、金額を選んで、メッセージを入力して、送信した。
所要時間、4分。
のしの種類を悩まなかった。発行手数料を払わなかった。百貨店まで電車で行かなかった。しかも自分のポイントが貯まった。
義母からは「好きなもの選べるの嬉しい!ありがとう!」とLINEが来た。
スタンプは花束だった。今度のウサギは笑っているだけじゃなく、私の心にも笑顔をくれた気がした。
そして気づいた。
あの2時間、あののし紙の選択、あの「近くに百貨店がない」のLINE、あのATM往復15分、あの切手84円と封筒30円——すべては、今日のためにあったのかもしれない。
もしくは、ただの無駄だったかもしれない。
でも一つだけ確かなことがある。
次のSALEでは、ちゃんと楽券を先に買う。
スプレッドシートに書き込んだ。太字で。アンダーラインつきで。
隣の列には、去年取り逃がしたポイントの概算金額も書いた。
見てはいない。